2018年4月27日に大阪にある株式会社天彦産業様へ訪問しました。

社長の樋口友夫様が社長の生い立ちから会社説明と我々の質問にお答えくださりました。

 

樋口社長の学生時代の勉強してこなかったコンプレックスから仕事で役に立った時に解消された話は、現在の社員の個性に合わせた強みを知り活かすこと、会社の強みを知り活かすことにつながり、後で書いているように社員の力を合わせて会社を経営する姿勢を初志貫徹されている原動力になっているように思います。

 

参加者の家訓についての質問で「家訓はゼロ」との事でした、先代、先々代と振り返ると、縁のあった他社の経営を支援、引き受ける際、経営不振でありながらその社員の昇給や賞与を止めることが無かった例を挙げながら、社員を大切にする姿勢を見てきた、という意味で、家訓は無くても行動で示した点がいくつかあったのであろうと想像します。

 

会社説明を受けた部屋に掲げられていた「『価値の追求』天彦行動十訓」と「実践十ヶ条」に目を通したところ、興味深い内容が多くありました。

 

「部分最適より全体最適を求めること」、「委員会活動を業務である直接的に利益を生み出す行動と同等とするよう求めている点」これらは組織化の要点を端的に示していると驚きました。

 

また、経営学者の野中郁次郎氏の知識創造企業の理論である「暗黙知と形式知」について挙げられており、社長の「経営学書のようなものは読まない」の言葉とは反対に、経営について学問としても学ばれているように思います。またはこれらの内容が社員の言葉を集めた内容であれば、それはそれで経営への理解が非常に高度な状態を指しています。

 

社長は書籍として他の経営者が書かれたものを読まれるそうですが、私のような会社を経営したことの無い者が読む意味と違い、経営者としての感覚を持って文字としては書かれていない行間の、著者の心の動きや思考過程を読まれているのだろうと推測しています。

 

社長が「俺一人だけに経営を任せたら絶対つぶれる」「社員の全員が小指の先まで経営に参加してくれないとつぶれる」の言葉に分かるように、自身の過去のコンプレックスと、ありのままを受け入れ、社員の力を求め引き出す工夫を大切にされており、従業員の様子を見て「てんひこ色に染まってきているな」との言葉の反面、「俺の物真似はしてはいけない」とも仰っており、この違いについて、

 

社長の考え方は自分自身の得意な方法(社長の人柄を含め)で経営されているという意味と、てんひこ色は社員全員で作り出すものであるという違いを指しているように思います。

 

てんひこ色は、自社の社員のあるべき姿であり、社員の基本であるコンピテンシーから自社の社員の素晴らしい姿であるコア・コンピタンス、さらには社員全体が人柄から経営への理解までを含んだ学びを続ける『学習する組織』の一員となる企業風土であると見て取れました。

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「仕事自体は楽しくないが、その周辺で見つけてほしい」という意味のお話がありました。その一つに社員一人一人が会社・同僚の役になっていることがあるというお話は、人の承認欲求や自己実現に繋がり、また衛生要因・動機付け要因の動機付けに大いにつながっています。

 

社内報の出来たばかりの最新号をわざわざお届けしてくださった入社2年目の女性社員に「自分が会社で役に立っていると思う所はどんなところですか?」と質問したところ、「入社したばかりなので、上の人の時間を作れるようにしている点です」と即座にお答えくださいました。これは普段から意識して仕事をされており、評価制度と目標設定といった育成の面でもモチベーションとしても機能している様子でした。社員の返事に合わせて社長が「怖いね」との感想は、自分も役員もうかうかしていられないな、という意味でしょう。

 

そのほか、気になって飛行機の中で声をかけた若者が最終的に上海の支社を開くきっかけとなったり、女性社員の育児休業からインターネット販売がスタートし、売り上げを上げている内容を聞くと、偶然を見逃さずチャンスとする計画的偶発性を上手に取り入れています。実際の人生は偶然の重なりで、それをどう生かすかにかかっている部分が多く、経営という枠ではなく、人生としてのお手本を聞かせていただきました。

 

社員を大切にすることによって女性活躍の視点から社外への認知度が高まり、社員募集採用に困らなくなっていく過程は、「社員を大切にする」を日本社会から見たら異端とされているからこそ輝くという意味でもあります。

 

退職者が6名続出した昨年度のお話は、我々の先生である牧野氏の分析と予言通り退職後の会社の売り上げが向上した点から、優秀な人材が採用できるようになり、「うかうか」していた先輩社員が社内での居場所がなくなって居づらくなったことや、社風の変化を感じ取って自然と離れていく可能性を知り、組織にふさわしい人が入ってくること、業界としての組織規模の調整が自然と行われることが分かりました。ただ、高い要求かもしれませんが、外へ出てしまう人が生まれないように「うかうか」させないよう出来ると素晴らしいと思います。私自身も向上心や欲望が薄い人間なので、あまり圧をかけると苦しくなる気持ちも分かります。人それぞれの質を受け入れられる体制になるには、ある程度の会社規模も必要かもしれませんし、考えさせられます。

 

社員採用についてのお話で「就職希望者が玄関から入ってくるところから社員全員が見ている」と聞き背筋が伸びました。きっと我々も見られていた、と思うと、どんな評価だったのだろうと気になります。

 

年次有給休暇の取得率が上がると売上高も上がる点について質問したところ「後付けの結果論」という返答でした。私も同意見で、確かに多少の相関性はあると思いますが、その他の様々な要因、例えば会社への貢献の意識付けの委員会活動、役割付けしていなくても入社1年目の社員に2年目の社員がコーチングしていること、人事評価制度の仕組みとその徹底、樋口社長のリーダーシップによる社風の一貫性などが、有給取得率と経営数字の向上に現れていると思います。

 

様々な書籍やインターネットの情報などを読む限り樋口社長は一切叱らない、怒らない、常に柔和な神様のような存在とされていますが、実際には社員が「(原理原則に反し)してはならないこと」をしたときには大きな声でお叱りになるようですし、過去の倒産危機の経験からも「社員を幸せにするために会社は継続しなければならない」として厳しい一面もある、あって当然と思います。

 

質疑応答の際、樋口社長の横で水田係長がずっと真剣な表情を崩さなかったのが印象的で、社長は我々に話しつつ、水田さんに自分の考えを伝えている意味も有るのだろう、そして水田さんが真剣に受け取ろうとしている様子でした。

 

質疑応答の後、工場内の見学となりました。私は10年ほど前に鉄工所で10年ほど働いていたため、使用したことのある機械や材料を見つけ懐かしくなりました。

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社長のお見送りを受けながら帰宅する途中、感想として真っ先に頭に浮かんだのは「こんな会社だったら、会社を辞めることも、社会保険労務士になろうとも思わなかっただろう。」です。

 

天彦産業様のような会社が日本に増えれば、幸せな人は増えるのではないか、そのためにも感動だけではなく、きちんと分析して、私の関わる会社で役立てることが出来るようにしたいと思いました。

 

今回は貴重なお時間を、ありがとうございました。

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