平成28年11月30日に平下塗装株式会社様へ訪問しました。
以前、愛知県庁が主催する「障がい者ワークフェア」に見学に行ったときに、従業員の大半が障がい者として紹介ブースにおられたのがこの会社を知ったきっかけで、平下学社長と奥様の洋子様のお話を聞き、是非とも見学させて下さいとお願いしました。半年ほどかかりましたが、「いい会社」の法則実行委員会の仲間と訪問できてうれしく思います。
当日は社長の平下学様と奥様で総務の洋子様からお話を聞きました。お二人とも私たちに伝えたいこと、話したいことが多くある、その様子が伝わってきました。
平下塗装様は工場で製品の塗装をされている会社で、社長が現場を取り仕切っています。
「従業員の仕事の内容は小学生でもできる」とされながらも、「2人で出来る事を3人でやると逆に効率が落ちることもある」「どれくらいのスピードで動けるか、これ以上スピードで機械を動かすと、仕事が止まる」といように、社長が仕事を観察し、細かく感覚的にも仕事を分析されている様子で、それは従業員の能力への理解も含め、大変な取り組みであったようです。その言葉として「初めの5年間は頭が狂いそうになった」とおっしゃっていました。
工場現場を見学すると、とても片付いていて物が少なく、整理整頓がなされていました。工場の普段動ける面積を広く使えるように工夫されているようです。従業員の皆様の動きも正確で無駄がないように見受けられました。
塗装する部品の品数や種類によって、労働力の必要量の上下に対して「普通なら20人で出来る仕事を25人でやっている」とのことですが、業務の集中する箇所(ボトルネック)を解消する方法を取られているように見受けられました。
社長の「従業員採用時には障がい者手帳を見てどれくらいの仕事ができるか考えて仕事を割り振る」「仕事は覚えるより慣れろ。行動が早い者ほど仕事ができるようになる。」の言葉には一定の基準がある事と、その後の従業員への成長の期待があり、ぶっきらぼうな話しぶりとは反対に、非常に繊細に仕事と従業員を見ている様子がうかがえました。
仕事ができる人は評価し、賃金を上げる。その逆もあると聞き、その意味でも仕事の棚卸によって業務が分割されている様子がうかがえます。
また、先代の時代に3人の障がい者を雇用され、学社長に交代した後に「障がい者が戦力なる」と気付いたところは非常に面白く思います。障がい者であっても仕事ができる人がいる事、製品の種類が多く機械化が難しい所、複雑な仕事ではない事、賃金が高くない事、これらが重なって、今の形が出来ているように思います。
社長は「あまり話すのが得意ではない。」と外部での講演などを頼まれると洋子様が担当されているようです。洋子様は事務所を中心とした総務をしておられ、精神障がい者の従業員の雇用時から成長されて、今では電話受付からパソコンでのエクセルや伝票の仕事が健常者以上に出来るお話をされました。このような話を聞くと、可能性を信じて雇用を続け、教育する姿勢がどれだけ大切なのかを教えてくれていると思います。
障がい者が就職して働くうえで大切なことも、お話の中でいくつか出てきました。ひとつは掃除が出来る事はとても重要であること。どんな仕事でも掃除は必要だから、出来る仕事が終わり、次の仕事が発生するまでの時間に掃除をする事が出来る。物を移動させて掃除できるように学校で教えてあげないといけない。とのことでした。
もう一つは家庭環境。一般就労に対して家族の理解がないと難しいそうです。施設に入れば良いとか、働き始めて努力を求められる時に、家族が共に力を合わせられないと、本人が成長しない、守られない、ということがあるそうです。家に帰ってからの規則正しい生活もとても大事と聞き、これは健常者も同じであると思います。
今回の見学者の中に「平下塗装さんは有名だと思っていた」との発言をしていた人がいましたが、「いい会社」の中には、あえて有名にならないようにしている会社もあります。有名になると同業他社との競争が激しくなったり、取引先が無理な値引きを求めたりと、マイナスの部分もあるためです。きっと「この子を雇ってください」との要望も多くなることでしょう。自社で出来る範囲を守って今の安定したバランスを保つようにしていただきたいと願います。
親族やその他の心無い人からの、障がい者という弱者を狙った悪質な行為から従業員を守られているお話もされました。市役所職員の力なども借りて精一杯にトラブルから守ろうとされています。従業員の方が「早く言ってくれれば軽度の問題で済んだ」部分もあり、月一度のように頻繁に従業員やその家族との面談を繰り返すとか、家庭訪問を行うなど、非常に時間と手間がかかるかもしれませんが、早めに情報を収集できるような仕組みつくりが求められているように思います。
障害年金について知ったのも5年前とのことで、すでにされているようですが、今後は社外へと積極的に情報収集を行うことと、協力し合える仲間を増やしてゆくことが大切であると思います。
見学の最後の記念撮影の際に洋子様より「あの子(ある従業員)に3回目に首を絞められたとき、私が倒れて、ろっ骨を折ったのを見て、それからあの子は気付いたみたいで、落ち着いてくれるようになった。」と精神障がい者の雇用の大変さをお話になりました。
私は、洋子様が従業員を「私たちの子」と表現され、首を絞められたとしても雇用を守り抜く姿を見て、とても強い利他の精神と愛情を見ました。
平下塗装様を知れば、誰もがこの会社を大切にしたいと思うはずです。このような会社があることに感動します。
見学させて頂きありがとうございました。